Maddalena Selvini
ミラノを拠点に活動するMaddalena Selvini (マッダレーナ・セルヴィーニ)。石や羊毛、木、紙といった古来からの素材文化の調査と、オルタナティヴな生産方法に焦点を当てたデザイナーです。ちょうど最近、彼女がユニークに梱包してくれた荷物が届き、中から出てきた品をお店に並べている状態です。
まず、紙と紙からなる容れ物。厚さの異なる平面の紙同士を折り、組み合わせていくと、それぞれの紙の張力が重なって自立性が生まれます。買ってくださったお客さま方にも、なるべくご自身で組み立ててみてほしいということ伝えながらお渡ししています。そうすることで、このプロダクトがいかに面白い発想でつくられたかということが伝わると思うからです。
そして、もうひとつは、まるでワンタンのようなフェルトのピロー・クッション。彼女は、フェルトは綿や他の織物よりも粘土に近いと表現しています。熱に触れた羊毛繊維は収縮し、どんな形にもなる。そして、織物のように柔らかくて薄いものにも、土のように硬くて厚くてコンパクトなものにもなると言っています。座布団や枕、クッションといったそれらの休める要素を折衷したような、穏やかな弾力が魅力的です。いつも硬くて座りにくかった場所もすっかり居心地良くなるわけですから、物を通した居場所の創造でもありますね。
次は、石とそれに乗った不思議な立体から成るディフューザー。石の中にはキャンドルを、上に乗せた立体にオイルを垂らすことで、香りを立ち上らせる仕組みです。この不思議な立体は、石を回転させる際に発生する粉塵を型に入れ、高温で固化させたもの。その出来上がる立体の多孔性に着目しなければ、きっとディフューザーにはならなかった。私たちはこれにAPFRのフレグランスオイルを組み合わせ、毎日香りをたのしんでいます。曲線の柔らかさもあるからか、なんだか生き物のような、新しい家族のような愛らしさを感じています。
また、私たちがインテリア類をディレクションしているリラクゼーションスペース THERAPY-Cにもベニヤのバスケットを配置しました。こちらはレーザーカットされたフレキシブル・ベニヤの平面パネルを曲げながら組み合わせていくもので、ベニヤの反発力が小さな空間を形成し、その模様が湾曲していく様子がとても美しいです。品名の"チェスト"はギリシャ語で"箱・編みかご"を意味し、英語では私たちの重要な臓器が入っている空洞、"胸郭"を意味します。この言語センスもとてもユニークですよね。
一連の彼女の作品群について考えてみると、どれも原材料が絶対的な主役となっていて、古来から変わらぬその特性を現代的な感覚で解釈し、新しい命を吹き込んでいるように感じます。それはとても学術的であるのに、私たちの生活の中に穏やかで優しい着地をしている。その類稀なる感性に、同じ時代で出会うことができたこと、お互いの仕事を通して関われていることをとても幸せに感じます。