JILL PLATNER

  年齢を重ねてくると、アクセサリーをつける意味も段々と変わってきました。それは誰かにみてもらうような、自分を飾るような感覚とは真逆、もっと内省的な感覚で、何かの印やお守りのようなものに近いのかもしれません。私たちがつけているJILL PLATNER(ジル・プラットナー)のジュエリーもそのひとつです。自然界の形態やテクスチャーを源に生み出される有機的なフォルムは、とてもオーガニックなインスピレーションから生まれたもの。ただ、それが単なる自然回帰に帰結しない、極めて洗練された造形となっているのは、制作の場を東海岸とし、ジュエリーだけでなく大型の金属彫刻作品も手掛けている彼女のコンテンポラリーなセンスではないでしょうか。 そして、私たちはそれが20世紀の彫刻家たちとも通ずるものがあるようにも感じています。例えば、イサム・ノグチが石や金属で追求した、動的な静寂。また、自身の作品を「抽象ではなく 本質を表現した具象」と語ったコンスタンティン・ブランクーシなどもそれに当てはまるように感じています。もちろん、今健在なのはジル・プラットナーだけですが(笑)。彼女の作品を手にとられる際は、ぜひその作品名も私たちに訊ねてみてください。"Birdbone" "Seaform" "Gloriosa" "Armadillo"など、妙に腑に落ちる歪みや曲線が新たにみえてくるかもしれません。 また、実際のジュエリーの一部分についても触れておきたいと思います。よく訊かれるのが、ブレスレットやネックレスに用いられている紐について。これはTENARAという特殊繊維を編み込んだもの。水を吸収せず、太陽光に長時間晒されても、色褪せどころか強度も劣化しないという、非常に耐候性の高いものです。これは、自身がサーファーであるライフスタイルを起点とした選択と思うのですが、やはり何年も着けている私たちのブレスレットも、TENARAに劣化の面影はなく、普段の生活の中でもこの強度に信頼をおいています。金属部分を丁寧に手入れするもよし、経年変化に任せるもよし、つける人の自由が良いと思います。 誰もが知るハイブランドでもなく、かつてのシーンを席巻したネイティヴのそれでもなく、現代の私たちが、これから歳月を重ねながら身につけていきたいものは何な...

Maddalena Selvini

 

ミラノを拠点に活動するMaddalena Selvini (マッダレーナ・セルヴィーニ)。石や羊毛、木、紙といった古来からの素材文化の調査と、オルタナティヴな生産方法に焦点を当てたデザイナーです。ちょうど最近、彼女がユニークに梱包してくれた荷物が届き、中から出てきた品をお店に並べている状態です。

まず、紙と紙からなる容れ物。厚さの異なる平面の紙同士を折り、組み合わせていくと、それぞれの紙の張力が重なって自立性が生まれます。買ってくださったお客さま方にも、なるべくご自身で組み立ててみてほしいということ伝えながらお渡ししています。そうすることで、このプロダクトがいかに面白い発想でつくられたかということが伝わると思うからです。

そして、もうひとつは、まるでワンタンのようなフェルトのピロー・クッション。彼女は、フェルトは綿や他の織物よりも粘土に近いと表現しています。熱に触れた羊毛繊維は収縮し、どんな形にもなる。そして、織物のように柔らかくて薄いものにも、土のように硬くて厚くてコンパクトなものにもなると言っています。座布団や枕、クッションといったそれらの休める要素を折衷したような、穏やかな弾力が魅力的です。いつも硬くて座りにくかった場所もすっかり居心地良くなるわけですから、物を通した居場所の創造でもありますね。

次は、石とそれに乗った不思議な立体から成るディフューザー。石の中にはキャンドルを、上に乗せた立体にオイルを垂らすことで、香りを立ち上らせる仕組みです。この不思議な立体は、石を回転させる際に発生する粉塵を型に入れ、高温で固化させたもの。その出来上がる立体の多孔性に着目しなければ、きっとディフューザーにはならなかった。私たちはこれにAPFRのフレグランスオイルを組み合わせ、毎日香りをたのしんでいます。曲線の柔らかさもあるからか、なんだか生き物のような、新しい家族のような愛らしさを感じています。

また、私たちがインテリア類をディレクションしているリラクゼーションスペース THERAPY-Cにもベニヤのバスケットを配置しました。こちらはレーザーカットされたフレキシブル・ベニヤの平面パネルを曲げながら組み合わせていくもので、ベニヤの反発力が小さな空間を形成し、その模様が湾曲していく様子がとても美しいです。品名の"チェスト"はギリシャ語で"箱・編みかご"を意味し、英語では私たちの重要な臓器が入っている空洞、"胸郭"を意味します。この言語センスもとてもユニークですよね。

一連の彼女の作品群について考えてみると、どれも原材料が絶対的な主役となっていて、古来から変わらぬその特性を現代的な感覚で解釈し、新しい命を吹き込んでいるように感じます。それはとても学術的であるのに、私たちの生活の中に穏やかで優しい着地をしている。その類稀なる感性に、同じ時代で出会うことができたこと、お互いの仕事を通して関われていることをとても幸せに感じます。